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横浜地方裁判所 昭和62年(行ウ)10号 判決

鎌倉市腰越一丁目一一番一二号

原告

中野好之

同市由比ガ浜四丁目六番四五号

被告

鎌倉税務署長

前田亨

右指定代理人

三代川俊一郎

安達繁

篠田學

原敏之

安藤明

星野弘

鈴木高一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六〇年六月二七付けで原告の昭和五九年分所得税についてした更正処分のうち分離短期譲渡所得金八六六七万九二六三円、納付すべき税金額一九八八万五八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告が昭和五九年分の所得税についてした確定申告及び被告の更正(以下「本件更正処分」という。)と過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」といい、本件更正処分と併せて「本件処分」という。)並びにその後の異議申し立て及び審査請求の経緯と内容は別表記載のとおりである。

2  しかしながら、本件処分は、以下の理由により違法である。

一 原告及びその妹中野利子は仙台市大町一丁目二番二宅地四三五・二三平方メートル(以下「本件土地」という。)を持分各二分の一で共有していたが、仙台地方裁判所における昭和五八年一〇月一三日の裁判上の和解(以下「本件和解」という。)に基づき、同五九年一月六日付け「土地売渡し等に関する契約書」により仙台市に対し右土地を二億八五〇七万五〇〇〇円で譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。

右の譲渡は仙台市による税法上の優遇措置に関する配慮を前提条件としてされたもので、租税特別措置法(昭和六〇年法律第七号による改正前のものをいい、以下これを「措置法」という。)三三条の四に定める収用等の場合の特別控除の特例(以下「収用等の特別控除」という。)が適用されるべき場合に該当する。

したがって、原告が取得した右譲渡代金の半額一億四二五三万七五〇〇円から原告が負担すべき取得費及び譲渡経費二五八五万八二三七円並びに収用等の特別控除三〇〇〇万円を控除した残金八六六七万九二六三円が原告の分離譲渡所得となるべきところ、被告は右収用等の特別控除の適用がないとして本件処分をしたもので、本件処分は違法である。

二 被告の担当者は、仙台市長が本件譲渡に関して作成した支払調書の下余白部分に「収用等の課税の特例の適用はありません。」と朱記し、あたかも仙台市長が右右記載をしたかのような記載をなし、もって仙台市長の作成した公文書を偽造し、これを本件譲渡の根拠として使用したもので、右は刑法一五五条、一五八条に該当する違法な行為である。

しかも、右の支払調書は仙台市長が租税特別措置法施行規則一五条に基づき所得税法二二五条一項九号による支払調書として作成されたものであり、その内容を被告担当者が勝手に書き替えることは到底許されるべきことではない。

三 また、右以外にも、被告の担当者が本件処分にあたってとった行動及び事務処理手続は全く常軌に逸したもので、税務署職員としての服務規律に違反するばかりか、国家公務員法九六条、九八条、一〇一条にも違反する違法な行為である。

四 さらに、被告は、原告が本件処分の理由を明らかにするよう再三にわたって求めたにもかかわらず、今日までこれを拒否し続けており、右は国税通則法八四条五項の理由通知義務違反であって、同法八七条にも違反しているもので、このため、原告は本件処分の理由がわからないまま審査請求をせざるをえなくなり、重大な不利益を被った。

しかも、被告は、原告の顧問税理士に対し本件処分の理由を開示することを約束しておきながら、その後国税通則法を悪用して右開示を拒否しているもので、これは民法一条の信義則に反するばかりか国家公務員法一条に違反し、同法九九条の信用失墜行為にも該当する違法は行為にほかならない。

五 国税不服審判所の裁決は、被告に加担した不公正なものである。

二 請求原因に対する被告の認否と反論

1  原告の請求原因1記載の事実は認める。

2  同2記載の主張に対する認否と反論は左記の通りである。

一 同2一記載の事実のうち、一段目は認めるが、二段目及び三段目は争う。

仙台市が措置法三三条一項一号所定の土地収用法等の規定に基づいて本件土地を収用した事実はなく、また、同項二号以下の各号及び同法三三条の二第一項各号の規定に該当する事実もないから、本件譲渡は本件和解に基づく任意の売買契約であって、原告が主張する収用等の特別控除三〇〇〇万円はその根拠がない。

しかも、措置法三三条の四第一項の特別控除は確定申告書にその適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、右適用を受けようとする資産について、公共事業施行者から交付を受けた同条三項の買取等の申出のあったことを証する書類その他大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限って適用されるところ、原告の確定申告書には右証明書等の添付がなかったのであるから、その形式的要件も欠けているのである。

二 原告は、仙台市長が本件譲渡に関して作成した昭和五九年分不動産等の譲受の対価の支払調書の下余白部分に収用等の課税の特例の適用がない旨記載したことをもって違法理由として指摘しているが、右支払調書は所得税法二二五条により支払者にその提出が義務付けられている書面であって、被告の内部資料に過ぎないから、右の記載により原告主張の措置法上の特例の適用に消長を来すものではなく、同二の主張はそれ自体失当である。

三 また、原告は、被告が本件処分の理由を開示しない違法が存する旨主張しているが、被告が法律上更正理由の開示を義務付けられているのは、所得税法一五五条二項の規定により青色申告にかかる事業所得の金額更正をする場合に限られる上、本件処分の調査の際に被告の担当者が原告の問題点を説明して修正申告を促しているから、原告が本件処分の理由を知りえないといういことはおよそ考えられないのであって、この点の主張も失当である。

三 被告の主張

1  本件更正処分の根拠

原告の昭和五九年分の所得金額と納付すべき所得税額は以下のとおりであるから、被告がした本件更正処分は適法である(△は損失の金額である。)。

一 課税総所得金額 七三三万二六七五円

左記の給与所得金額と雑所得金額の合計金額から不動産所得(損失)金額と所得税控除金額とを控除した金額であり、原告の確定申告にかかる各金額と同一である。

(1) 不動産所得金額 △六一万〇七八十円

(2) 給与所得金額 七三三万三一八二円

(3) 雑所得金額 一八三万三二二三円

(4) 所得控除金額 一八二万二九五〇円

二 課税長期譲渡所得金額 一億一五六七万九二六三円

左記の収入金額から取得費、譲渡に要した費用及び特別控除額を控除した金額である。

(1) 収入金額 一億四二五三万七五〇〇円

原告及びその妹中野利子は本件土地を持分各二分の一で共有していたが、仙台地方裁判所における本件和解に基づき、同五九年一月六日付けをもって仙台市に対し右土地を二億八五〇七万五〇〇〇円で譲渡(本件譲渡)したので、原告の持分二分の一に相当する一億四二五三万七五〇〇円が原告の収入金額となり、この金額は原告の確定申告における申告金額と同一である。

(2) 取得費 七一二万六七八五円

措置法三一条の四の規定により、右収入金額に一〇〇分の五を乗じた金額であり、この金額は原告の確定申告における申告金額と同一である。

(3) 譲渡に要した費用 一八七三万一三六二円

右金額は原告の確定申告における申告金額と同一であり、その内訳は左記のとおりである。

〈1〉 弁護士費用 一四七三万〇三〇〇円

〈2〉 不動産鑑定料 四六万五〇〇〇円

〈3〉 渉外費等 七五万三七一二円

〈4〉 交通費 三一四万二三五〇円

(4) 特別控除額 一〇〇万円

措置法三一条三項に規定する特別控除額である。

三 したがって、原告が納付すべき所得税額は左記(1)、(2)記載の各所得税額の合計金額から(3)記載の源泉徴収税額を控除した残額二七一三万五八〇〇円(国税通則法(以下「通則法」という。)一一九条一項の規定により一〇〇円未満切り捨て)である。

(1) 総所得金額に対する所得税額

一五二万八一〇〇円

右は、通則法一一八条一項の規定により総所得金額の一〇〇〇円未満を切り捨てた金額を基礎として所得税法八九条の規定により算出した金額であり、原告の確定申告における申告金額と同一である。

(2) 長期譲渡所得金額に対する所得税額

二六九一万九七五〇円

本件譲渡は措置法三一条の二第二項一号に規定する地方公共団体に対する譲渡であるため、同条一項二号ロの規定により課税長期譲渡所得金額一億一五六七万九〇〇〇円(通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満切り捨て)から四〇〇〇万円を控除した残額に一〇〇分の二五を乗じたものに八〇〇万円を加算した金額である。

(3) 源泉徴収税額 一三一万一九六五円

右金額は原告の確定申告における申告税額と同一である。

2  本件賦課決定の根拠

本件更正処分により原告が新たに納付すべき全額は七二五万円となるから、通則法六五条一項に基づき右税額に一〇〇分の五を乗じた三六万二五〇〇円が過少申告加算税額であり、被告がした本件賦課決定は適法である。

第三証拠

証拠は、本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  本件処分等の経緯

本件処分とその後の異議申し立て及び審査請求の経緯と内容が別表記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  本件更正処分について

1  原告及びその妹中野利子が本件土地を持分各二分の一で共有していたこと、仙台地方裁判所における本件和解に基づき、同五九年一月六日付けをもって仙台市に対し右土地を二億八五〇七万五〇〇〇円で譲渡したことの各事実は当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない乙第五号証の一、二と弁論の全趣旨によれば、被告の主張1一及び二の(1)ないし(3)記載の各所得及び経費を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

2  原告は本件譲渡について措置法三三条の四に定める収用等の特別控除が適用されるべきである旨主張するが、原告の主張するところは、訴訟上の和解により本件土地の持分を仙台市に売渡したというに過ぎないものであり、右事実をもってしては右条項の適用を認むべき要件を具えているものとは到底認められず、他に右要件について何ら主張、立証がないから、本件譲渡について右条項を適用する余地はなく、原告の右主張は失当である。

したがって、本件譲渡については、同法三一条三項に規定する一〇〇万円の特別控除が適用されるに過ぎないものである。

3  以上によれば、原告が納付すべき所得税額は、被告の主張1三記載のとおり二七一三万五八〇〇円となる(原告の源泉徴収税額が被告主張の金額であることは、前掲乙第五号証の一、二により認められる。)から、被告がした本件更正処分は適法である。

4  その他原告は本件更正処分が違法である旨るる主張しているが、その主張するところによってはいずれも本件更正処分を違法とする理由とはなしえないものであって、その主張自体において失当である。

三  本件賦課決定について

本件更正処分が適法であることは前記のとおりである以上、原告に対して課すべき過少申告加算税は被告の主張2記載のとおりの金額となること明らかなところであり、本件賦課決定も適法である。

四  結論

そうすると、被告がした本件処分は適法であり、原告の本訴請求には理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 宮丘章 裁判官 今中秀雄)

本件課税処分の経緯

〈省略〉

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